コロコロと興味の対象が移り行く音方による、日々の熱い物を綴ってみた日記。   ※アダルト・商業系サイトやここの記事とあまりにもかけ離れたTBやコメントは削除させて頂いています。悪しからずご了承下さい。


by otokata
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なりゆきでファンフィクション


 更新されてますね、公式サイトの製作レポート。
この前まで旗振りプルヴェールだったのに、ちょっとパソコンいじらなかった間に、塩田さんのインタビューやジョリインタビューまでUPされちゃってて・・・。
すっごく楽しいです。『ジョリすべーる』って・・・、なんちゅーネーミング!サイコーです!!

 ただ「最後に全員で歌う民衆の歌の時にジャベールがいないのはどうしてなのでしょうか?」の回答は凹みました。何となく判っちゃいたけど、やっぱり自殺だから神の御許に行けなかったんですね。

 「警部を救ってくれない神の国なんぞいらんわい!!」と、開き直るのも手ですが、やっぱり私はジャベールにも何とか幸せになってほしいので、ちょっと脳内シミュレーションをしてみました。(人はそれを妄想と呼ぶ)

そうですね・・・、そのうちバルジャンがセーヌの水底までジャベを迎えに行ってあげる。ってのはいかがでしょう?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
 どれだけの時間、俺はここにいるのだろう?
冷たく、静かな川底。まともな神経ならとっくに狂っているだろうその沈黙の中で、俺はそれでもぼんやりと意識を保っていた。本音を言うともう何も考えたくはないのだが、どうやら自ら命を絶った俺への罰らしい。何の未練もないこの世の片隅で、しかも誰も気づかぬ隔離された世界で、俺はまだ生前の記憶と刻み付けられた苦悩を抱えて存在していた。

 いや、違う。

 これは地獄なのだ。

 道を踏み外した者は地獄へと落とされる・・・。

 想像していた炎の中とは正反対の場所だが、自分が踏み外した事実を手放せぬまま、ここで行く道も見出せずに、真実の消えうせたことを感じながら生き続けることは、地獄以外の何物でもない。
俺の肉体はとっくの昔に引き上げられて埋葬されたらしいのに、魂はここを離れることが出来ない。虚ろなまま、考えざるを得ず、しかし答えは出ない。我慢ができない状況だ。

 ああ、・・・もう何も考えたくない。

 自分の信念は折れ、確かに手にしていた真実が砂の様に零れ落ちた。星の光も届かぬこの深く暗い死の世界で、このままこの世の終わりまで、俺は囚われるのだ。

 かつて俺が見てきた、あの徒刑囚達のように

 惨めな男達。

 人間としての権利を剥奪され、ただ獣のように成り下がって本能のまま生きる悪党共。見るのもおぞましい最下層の連中である奴らは、もはや人ですらなかった。一度悪事に手を染めれば二度と光の元には出られぬ。

 俺も、奴らの仲間入りをしたのだ。
 
 だが・・・、そうだ。そんな惨めな集団の中に、一人だけ例外がいた。

 徒刑囚でありながら、天使のような心を持った化け物が。
俺は一日たりともあの男のことを忘れたことはない。
 
 あの男とて、最初は一介の徒刑囚に過ぎなかった。
大勢の、道を踏み外した悪党の中の一人。何もそれ以上特別なことは無かった。
それなのに、彼は光の下に戻ったのだ。

ここでどれだけの時を過ごしたかは分からぬが、あの男ももうこの世にはいないだろう。
罪人は普通は天には行けぬが、あいつは違う気がする。

 徒刑囚が聖者のように清らかな心の持ち主になり、人に親切を行うという事実。

 町を興し、貧民層に仕事を与え、市長となり、娼婦を警官からかばい、更にはその女の孤児まで引き取って育てたという事実。

 若者をバリケードから救い出し、傷だらけなのに下水道を通ってまでして帰してやるという事実。

 そして、自分を追い続けた警官の命を助け、釈放したという事実・・・。

 信じられないが、あの男は偉大だった。もはやただの元・徒刑囚ではなくなり、天に近い男になっていた。

 だが、俺は天など見たくもなかったし、彼に助けられたくもなかった。
追う者と追われる者、バルジャンとジャベールのまま居たかった。

 「ジャベール」

 そんな声で話しかけるな。お前にとって俺は敵だったはずなのに・・・。

 「え?」

 久々に聞く俺の名が、突然静寂を破った。この声には聞き覚えがある。
忘れたくとも、忘れられない。

 「バルジャン?」

 顔を上げると、見慣れた顔。
初めて出会ったときの、あいつの顔だ。だが、ツーロンにいたときの表情じゃない。
若返ってはいるが、表情はまるでマドレーヌ市長を名乗っていた時のようだ。

 「久しぶりだな、ジャベール。」

 懐かしそうに微笑む奴を見て、俺はどうしていいか分からなくなってしまった。
下水道で相対したときと同じ。懐かしさと憎悪の交じり合った、何ともいえない感情に襲われた。
ただ、阿呆のようにバルジャンを見つめることしか出来なかった。

 「セーヌ川の底というのもロマンティックだが、ずっとここにいるのも寂しいだろう?」
 「余計なお世話だ。」
 「話し相手もいなければ、追う相手もいない。」
 「皮肉だな。俺はもう警官じゃない。誰かさんのせいで、もうその資格すらない。」
  
 そう言うと、バルジャンはその言葉を待っていたかのようににっこりと微笑んだ。
 
 「奇遇だな。私ももう徒刑囚でも仮出獄違反者でもない。」

 彼が何が言いたいのかさっぱり分からないが、以前なら反発しただろうその言葉に噛み付く気は起きなかった。確かに、もう彼は罪人じゃない。死んで罪が消えるとは思わぬが、少なくとも彼の穏やかな様子を見ると、バルジャンは神に赦されたのだという気がしたからだ。

 
 「ジャベール、君は自殺という大罪を犯した。この世で最も痛ましい罪をね。」

 「誰のせいだと思ってるんだ」と言ってやりたかったが、癪だったので彼から顔を逸らして苦い表情をするだけに留めておいた。

 「だが、生前の君がどれだけ清廉で厳格で職務に忠実だったかは、神もご存知だ。」
 「それは結構なことだな。」
 「茶化すな、ジャベール。これは真面目な話なんだ。」
 「俺はいつだって真面目だ。」
 「ジャベール、ちょっと見ない間に性格が変わったか?」
 「君に上からものを言われるのが癪なだけだ。」

 バルジャンは何か言い返したかったようだが、肩をすくめて話に戻ることにしたようだ。

 「つまり、こういうことだ。君はこの冷たい水底で十分苦しみ、罪を贖った。もういいいだろう、私と共に行こう。」

 今度こそ阿呆に見えたと思う。開いた口がふさがらない。バルジャンが差し出した手と彼の顔を交互に見ながら、「何のつもりだ」と呟くので精一杯だった。

 「君を神の御許に連れて行く。もうこんなところに一人で残しはしない。」

 「悪いが、一人で帰ってくれ。」
 彼にとって俺の答えは、想定内だったのだろう。特に驚く様子もなかった。
 「だが、私は君を連れて行きたい。」
 「俺は君とは行きたくない。」
 「ジャベール、正直な話をすると君がいないと、調子が狂うんだよ。君だって、もう警官ではないのだから私を逮捕する義務はないだろう?」
 「俺は君の顔を見ていたくないんだ。君の側にいると、俺は俺でなくなってしまう。」
 「よく分からないが・・・、見たくなければ見なければいい。別に私は付き纏おうとしているわけではない。とりあえずこちらに来てみないか?清らかで、一切の悪が存在しない世界だ。」
 「お断りだ。」
 「ジャベール、私が何故君を迎えに来たか少しは考えてくれ。私は君と話がしたい。徒刑囚でも警官でもなく、ただのバルジャンとジャベールとして。」
 「私にとってバルジャンとジャベールは正と悪の象徴だ。」
 「では、どちらがどちらなのだね?」
 「それは・・・。」
 答えることなど出来なかった。当然自分は法の下に罪人を追う正義だし、彼は罪人で逃亡者だった。だが、今の俺たちを見て、誰がそうだと言えよう。彼は光の道を歩み、俺はつまづいて堕ちた。だが、俺の心は悪ではないし、彼が罪人だった過去も完全に消えるとは思えない。

 結局のところ、俺が認められないのはこのうやむやさなのだ。
だが、そろそろ認めなくてはならないのかもしれない。この世にはそういううやむやも存在し、時によっては必要だということを。

 「では、それを見つけるためにも、もうしばらく私と付き合ってみないか?こんなところにいるよりも、有意義な時間の使い方だと思うよ、ジャベール。」

 それでも、差し出された手を取るのはためらわれてしまう。情けをかけられること自体耐え難いが、その相手が彼であるというのがそれを決定的にしていた。

 「もう一度言うよ。私は君と話がしたい。私のことを24653ではなく、ジャン・バルジャンとして見て欲しい。私も君のことを、警官ではなくてジャベールという一人の人間として見ていたい。」
 「難しい注文だな。」
 「いきなり対等に見ろとは言わない。憎みたければ憎めばいい。文句があれば言えばいい。ただ、しばらくは穏やかに、茶飲み話がしたいだけなんだがね。」

 どうしてこの男は俺にこんな表情を向けられるんだ。
全てを見透かして、その上で受け入れてしまうような、懐の深い笑顔。
ツーロンで出会った男と同一人物とは、もはや思えない。

だから

 「君と茶飲み仲間になる気はさらさらないが・・・。」

 目の前にいるこのバルジャンは24653ではないのだろう。
24653は、死んだのだ。この男が生まれた時に。

 「この川底には確かにもううんざりだ。少しの間なら、付き合ってやろう。」

 言っても少しためらったが、思い切って手を伸ばしてバルジャンの手を握った。
その瞬間、この囚われた魂が高く昇っていくのを感じた。

 神の国で自由に生きる・・・か。

 俺も少しだけだが、望んでいたのかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ・・・二言三言書くつもりだったのに、いつの間にか長々とダラダラと書いてしまいました。
これだけの量のSSを書くのはすっごく久しぶりです。でも、完全にお二人が偽者。
まあ、いっか。私は迎えに来るバルジャンが書きたかっただけだし(書き逃げ)v

 
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by otokata | 2006-04-20 22:52 | レ・ミゼラブルSS