コロコロと興味の対象が移り行く音方による、日々の熱い物を綴ってみた日記。   ※アダルト・商業系サイトやここの記事とあまりにもかけ離れたTBやコメントは削除させて頂いています。悪しからずご了承下さい。


by otokata
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

バリケードの黄昏

 今日も黒服で通勤。黒いパンツと黒いジャケット。中のTシャツは黒と白のボーダー。
 「完璧・・・」
そう思って支度をし、いつもと同じように時間ギリギリになって靴を履いて玄関の全身姿見を見て愕然。

ルキーニじゃん・・・。

 作品違うよ、私。今日はエリザの命日じゃないって!!
 まあ、でも、「バルジャンの囚人服をイメージしました。」って思えばレミゼっぽいか・・・。
そう開き直って、普通に通勤しましたが。高嶋アニキはジャベだし、うん。

 で更に、図書館で『ブリン・ターフェル』というバリトン歌手のライヴDVDを借りてきました。検索していて偶然発見したのですが、ミュージカルナンバーから『見果てぬ夢』とか、『スターズ』とか歌っているのです。一応メインはクラシックで、どういう基準でいきなりここにジャベが入ったのかは謎ですが、ナイス選曲!!
 字幕も東宝の歌詞じゃない、ちゃんと訳したもので、一部日本語がおかしいですが、新鮮な感じがして嬉しいです。オケも素晴らしい!!
 で、肝心の歌いっぷりはと言うと、堂々たるもので、めっちゃ朗々と響いています。曲想も外して欲しくないところはきっちり抑えているし、ちゃんとジャベに聞こえます。

っていうか・・・

顔を見ずに聴けば惚れます(失礼ですが)!!

ブリン・ターフェル・ライヴ・イン・コンサート






バリケードの黄昏


 6月6日 夕刻

 政府軍によって陥落したバリケードで、一人の男が必死の形相で動き回っていた。
たった2日間の反乱ではあったが、彼らの戦いは周囲に大きな痕跡を残し、通りや酒場など、痛ましい破壊の跡が残っていた。まだ政府軍も完全には引いておらず、至る所で残党の追跡が始まっている。
 ジャベールはそんな周りの様子など気にも留めずに、ひたすら何かを捜している様だった。うつ伏せになっている学生をひっくり返し、その下の遺体も確認する。彼らの中を走り回っていると、顔を覚えている一部の者は、昨晩の、生きていた頃の姿が浮かんでくる。

 「俺たち死んでも何かが残る。」

 彼が捕らえられた時、暴徒の一人――後で観察して、その男が副官のコンブフェールだと知った――がそう言った。彼らは、その”何か”のために戦い、殉じて死んでいった。

 「・・・一体何が残ったと言うんだ?」
 注意を足元の、バリケード上の、並み居る彼らから逸らすことはなかったが、ジャベールの胸に、ふと去来した疑問は、知らず知らずのうちに彼の口から漏れていた。。
 「貴様達の屍以外に、一体何が残ったと言うんだ?」
 もちろん、物言わぬ彼らは答えはしない。ジャベールは自分でも気づかぬ位ではあるが、苛立っていた。
 何も残らず、何も変わりはしない。このゴミ溜めのような世界に平和や秩序をもたらす事が出来るのは、法の力以外には無いというのに。彼にとって、それを理解し得なかった学生達の、この末路は当然の結果だった。
 しかしジャベールは気づかなかったが、魂は既にここから飛び去った彼らのその表情に、思いを残した者は誰一人として無かった。

 ジャベールの頭は、再びあの男を捜す事でいっぱいになった。
 
 バルジャンはどこだ!?何故見つからない!?

 折り重なった死体を掻き分け、顔を確認し、ひたすら彼を捜す。学生、女性革命家、志願兵・・・。いくら捜しても、彼の姿はなかった。

 生きているはずが無い。
この陥落したバリケードの中に居たならば、あの男と言えども生きてはいられまい。

 だが、あの男がそう簡単に死ぬはずが無い。今までの彼の悪運の強さは、誰よりも自分が一番知っている。俺は必ず鉄格子にぶち込んでやると誓った。対決の決着だってついていない。
 それに、あいつには聞きたい事がある。

 ジャベールの脳裏に、昨夜のバリケードでの出来事がよみがえった。
椅子に縛られ、身動きできない自分の縄を解き、「出て行け」と言ったときの彼の声。
混乱しながらも「復讐しろ!」と迫る自分に、彼は悲しそうに首を降り、「何も分かっていない。」と・・・。
 何故あいつが俺を逃がしたのか、俺にはまだ分からない。
・・・・・・・あの男には、まだ死なれては困るのだ!!

 彼の死を確認しようと捜しているのか、負傷していようが何であろうが生きている彼を捕まえたいのか、それともここから器用に逃げ出してプリュメ街に戻っていて欲しいと思っているのか、自分の思考がまとまらないまま、ジャベールは必死になってバルジャンを探した。多くの死体を急いで、しかも一人で調べつくしたため、息が上がる。しかし、彼は何もかも振り捨てたように、バリケード中を捜しまわった。
 
 コラントの周辺を調べつくした彼は、ふとバリケードの外に出た。内側にばかり気を取られていて、外はまだ捜していない。自分が来た方向と逆の方になら、もしかして・・・!

 そう思い、彼はバリケードに登った。むやみやたらに高く積み上げられた砦を登る。流石に体力を大分使っていたので辛いものがあったが、彼は夢中で駆け上がり、外を見渡した。

 一瞬、ジャベールは捜し人の事を忘れ、目の前の光景に釘付けになった。

 「アンジョルラスか・・・。」

 そこでは、一人の青年が天を仰いでいた。両腕をいっぱいに伸ばし、全身で残照を受けるように・・・。一際目立つ美しい存在ではあったが、死の翼に絡めとられ、この世のものではなくなった彼は、以前とは別の美しさを湛えていた。
 いっぱいに見開かれた瞳は、生前のような輝きこそ失ってはいるが、苦痛の跡などは無く、まるで自分が消えた後も祖国の行く末を見つめようとしているかのようだった。自分の信念を、責務を貫き通して燃え尽きた後もなお輝く彼は、崇高なものにさえ見えた。

 「生憎だが、僕たちは勝つ。そして、自由を勝ち取る。」

 ジャベールの耳に、昨日の彼の言葉が聞こえた気がした。貴様はそう言っていたが、所詮最初から無理な話だったのだ。

 けれど・・・

 ジャベールは、しばし眼を閉じて頭を垂れた。決してアンジョルラスの理想を解したからではなく、その死を悼んだわけでもなく、ただ何か言葉では言い表せる事の出来ない、心が打ち震えるような敬意が彼に過ぎっていた。
 目を開けると、アンジョルラスと目が合った気がした。ジャベールは物言わぬ彼を、そのまっすぐな目をただじっと見つめると、おもむろに踵を返した。

 今はただ、ジャン・バルジャンを捜すためだけに・・・。 



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「レ・ミゼラブルで一番泣けるシーンはどこですか?」と問われたら、今の私ならこのシーンを挙げます。バルジャンを捜すジャベールの必死さ、燃え尽きたアンジョルラスと、小さいながら必死で戦ったガブローシュ、そしてバックに流れる『Bring him home』の美しさ。『ジャベールの自殺』に来るまでにいつも既に涙でボロボロです。
 アンジョルラスの遺体を見たときに、何か感じ入ったような表情をするジャベールが好きです。アンジョルラスなら、「見届けようとすると思う。」と仰っていたS元さんのアンジョルラスの死に様が、私には一番しっくりきます。そんな彼らを書いてみました。時間設定は勝手に夕刻にしたけれど、本当は夜なんでしょうか?
 相変わらずアンジョルラスとジャベールしか出て来てないけど、砦で燃え尽きた皆の冥福を祈って・・・。
[PR]
by otokata | 2006-06-06 22:31 | レ・ミゼラブルSS